世界大会っていうとえらそうですが、日本でしか売ってないし地方予選とかもないです。
この大会、なんと100人も集まったのです。こんな規模で大会やるボードゲームなんて他はドミニオンくらい。すごい。
まあ自分の結果はたいしたアレじゃないですが。1位3位2位で決勝トーナメントは出場できず。
ハートオブクラウンというのは同人のドミニオンクローンなんだけど、なにしろプロのマンガ家が絵を描いてるし、ちゃんとおもしろいしというわけで、けっこうな数が流通している。これもう同人の規模じゃない。
大会のほうも、ちゃんと卓数ぶんのセットが用意されていたし、参加賞でプロモーションカード(しかもフォイル!)がもらえたりと、なんともすごい。
参加料無料だし。
このゲームの特徴はなんといっても、アフターサポートだろう。イベントで売るだけではなく、その後の展開がとても充実している。ゲーム調整のためのエラッタが発表されたり、拡張セットやオリジナルのストレージボックスが販売されたりと、つねに話題を作っている。
今度、PC版というのも出るそうだ。
そうした活動の一環というか、今回の大会も公式だ。
企業ではないけどただの同人でもない、そういう立ち位置だからこそできるという感じがすごくある。
思うんだけど、ボードゲームのプレイヤーって思った以上に多いです。
わたしはハートオブクラウンをそんなに遊んでいるわけじゃないのだけど、世の中にはハートオブクラウンを遊ぶための集まりというのもあって。そこではそれ以外のボードゲームが遊ばれることもあるらしい。
それはたぶん、わたしがふだん遊ぶようなコミュニティとはぜんぜん違うところにあって、遊んでいるゲームも違うしスタイルも違う。でも彼らって、間違いなくボードゲームプレイヤーじゃん。すごいたくさんいるじゃん。
というようなことを、こういうイベントにいくと思うのでした。
(個人的には、ハートオブクラウンのことは高く評価してるものの、このゲームがクローンじゃなかったらもっとすばらしかった……などとは少し考えてしまう)
忘れてたわけではなく。いちおう書く気はある(読者がいるかは別として)。最初に何個かゲームを挙げてしまってるわけだから、書きたいこともある。
でもいきなり、最初に書いた一覧に入ってなかったゲームだけど。
いわゆるアクションポイントシステムの初期代表作という意味で、やはり入れたくなった。なので割り込ませることにした。
手番あたり10ポイントのアクションポイントがあり、それを自由に割り振って行動する。コマの移動は何ポイント、テントを作るには何ポイント、というように、行動により必要なアクションポイント数が決まっている。
ふつうなら、手番にできることはひとつだろう。しかしこのゲームは、1手番中に複数のことができる。組み合わせはプレイヤー次第。選択肢の数が爆発的に増え、自由度が増した、といえる。
でもこれが、弱点にもなっている。多すぎる選択肢はプレイヤーを不要に悩ませる。それに、いわゆるダウンタイム。他のプレイヤーが行動する間、することがない。このゲーム、上級ルールだと、下手をすれば30分近く待たされる。
テンポアップした現代の基準でいえば、とうてい遊べないゲームということになってしまうだろう。いや、それは当時だって同じ。もしつまらないのなら、こんなゲームを遊ぶことはない。
でも、おもしろいんだからしかたない。30分待たされたとしても、それがおもしろいのだ。
まあ、それはこのゲーム自体の力であって、アクションポイントシステムの力かどうかはわからないけど。
アクションポイントシステムは、この後の歴史にとってけっこう重要だ。
まず、プレイヤーの選択肢を増やしたこと。ゲームを重くしたことだ。エルグランデなどと比べてもさらに重い。でも、そんな重さでも、おもしろいんだからしかたない。ゲームは重いほどいろいろなものを詰め込める。重いゲームが許容されないと、生まれてこれないゲームがあるはずだ。
もうひとつはもちろん、アクションポイントというシステムがこの後の歴史に子孫を残したこと。
アクションポイントはこの後もさまざまにアレンジされながら作られており、いまも残っている。さすがにだいぶ軽くなったけど。
同時に、別の、もっと洗練された現代的なゲームシステムの祖先ともなった。後で出てくるのだけど、ワーカープレイスメントというゲームシステムだ。これも、歴史的に重要な理由のひとつ。
この記事はゲームシステムの歴史の記事だ。生物学史といってもいい。アクションポイントは魚類のようにいまも残っているが、哺乳類のような現代的な種の祖先でもある。
いまの分類法のひとつでは、爬虫類も哺乳類も同じ「硬骨魚類」だということになったりするそうだ。どちらもシーラカンスのような魚から進化してきたから。ワーカープレイスメントは、アクションポイントシステムの亜種であるといういいかたもできる。さらにいえば、どちらもオークション脊椎動物の一種であったりするのかもしれない。そこはこの記事では書いてないけど。
わたしは、ワーカープレイスメントというゲームシステムをとても重要視している。ワーカープレイスメントを生むためにそれまでの進化史があったのだとさえ思っている。
あともちろん、ドミニオンのデッキシステムも同じくらい重要だというべきだ。
この2つが最新技術である以上、この記事が語っているような歴史の話は全部、そこにつながっていくことになる。
マジック:ザ・ギャザリングの独特の遊び方に「ドラフト」というのがある。
マジックのパックを買うと、中には15枚のカードが入っている。レアが1枚、アンコモンが3枚、残りはコモンだ(最近はこのレアリティ構成が変わっている。これは当時の構成)。これをつかって、ゲームをやるというのが、ブースタードラフトだ。
パックを全員が買い、開ける。出てきたカードの中から1枚を選び、残りを隣に回す。これをくりかえす。たいていは、3パックずつ買って開ける。
そうして集めたカードを使って、自分のデッキをその場で作り、対戦する。
なにがすごいってこれ、遊ぶためにお金がかかるのである。トレーディングカードゲームを売る店にとっては、こんなにうれしいことはない。いっぽうのプレイヤーにとっても、カードはどうせ買うのだ。それをただ開けるのではなく遊びながら開けられるというわけで、付加価値が上がっている。Win-Winの関係というわけだ。
トレーディングカードゲームがこれほど普及したのは、この遊びかたがあったためかもしれない。
そのドラフトを、ボードゲームにとりいれたのがこの操り人形だ。
いや実はそんなにドラフトっぽくはないのだけど。しかし、たしかに操作が似ている。
TCG的ドラフトは、この後『世界の七不思議』で、よりはっきりと影響の見られるゲームシステムとして現れることになる。操り人形ではじつは、システムだけを見たら、影響があったといいきれないような気もする。
でもまあ、ドラフトっぽいことは確かだ。当時、わたしの周囲のプレイヤーたちもそう認識した。
このドラフト的システムは、後年のボードゲームの歴史に密接につながっていく。
プエルトリコの役職選択システムにつながるものであろうし、さらにいえば、その後のワーカープレイスメントの礎にもなる。
それは、プレイヤーが行動を選択するということ。そのために、行動そのものを直接表したカードを用意したこと。その行動の選択自体に、プレイヤー間のインタラクションを直接持ち込んだこと。1個ずつしかない行動をとりあうことで戦略を分岐させる仕組み。
じつはもともと、ゲームとはそういうものだったのだ。ただ整理されていなかっただけで。操り人形は、マジック的なドラフト的なシステムを利用することで、そんなプレイヤーの選択肢を明確に役割カードとして表現してしまった。
すごいゲームだ。わたしはそう思っている。
どのあたりがすごいか。ゲームはここまでまとめ上げることができてしまうのだ、ということを、示したところだ。
やることはシンプル。場に並んでいるカードを、お金を使って購入する。カードの効果で、またお金が手に入る。勝利点が入ってくるカードもある。
変なところはどこにもない。
新しいところはあまりない。ゲームシステムの歴史という観点でいえば、このゲームが世界に新しく投入したものは別にないのではないか。そういう感じもする。
ただ、それを、これほどシステマティックにまとめてしまっているところがすごい。
サンクトペテルブルグがなしたことは、ゲームのオブジェクト化だ。プログラマの世界の言葉でいう、オブジェクト指向の発見と同じもの。
それまで、ゲームは準備から手順を追ってデザインされていた。しかしこのゲームは、ゲームの各場面やトークンをオブジェクトとして定義することでデザインされている。
職人カードと建物カードでは、ゲームとしてやることが違う。しかし、まったく同じインタフェースを持っている。同じ手順で、意味が違う行動を実行できてしまう。
別のいいかたをすれば。インタフェース定義があり、それの実装としてのオブジェクトがある。
プログラマ以外には伝わらないと思うけど……。ゲームシステムというものを工学的に解析するような立場にとってしか、重要でない話かもしれないんだけど。
服飾業界のメーカーとなり、服を売って稼ぐ。
デザインを手に入れて、必要な材料を買い、作る。作ったらファッションショーに出品する。ファッションショーで高い評価を得るほど、そのコレクションは高く売れる。
ゲームシステムは、いわゆるワーカープレイスメントだ。ワーカーコマをボード上のアクションに置き、それを実行する。個人的には久しぶりに遊んだ感のある、素直なワーカープレイスメントなのだ。
アクションはだいたい次のようなものがある。
基本的にはデザインを手に入れて、必要な材料を買ってきて服を作る。しかし、それだけではなかなか利益が出ない。そこで、外注契約、施設、社員の能力をつかう。
これ、3種類あるのがおもしろいのだけど、要するに特殊能力を持ったカードだ。種類が違うのは、少しづつ用途が違うから。
外注契約は1シーズン(3ヶ月)しか効果が続かない使い捨て。施設は建設にお金がかかり、毎月の維持費もかかる。人は建設費がかからないが、維持費はかかる。
はじめは、服を作ってショーに出展しても赤字だ。だから、銀行で借金したりもする。しかし、いろいろな効果を積み重ねていくと、だんだんと黒字になっていく。拡大再生産の楽しさがある。
ワーカープレイスメントと拡大再生産というわけで、なんかこう、こういう素直なゲームやるとやっぱり楽しかったりする。
ゲームルールはきれいに整理されているとはいいがたい。聞くところによると、旧版はもっと遊びづらかったらしい。タイルの特殊効果がポーランド語のテキストで書かれていたとか。
わたしが遊んだ新版では、効果はすべてアイコンや図になっていた。とはいえやっぱり、もともとテキストだったものを図に置きかえるのは無理がある。整理整頓されたアイコンとはいいがたく、わかりにくいところがわりとあったりする。旧版の話を聞いて、なるほどと思った。
他にも、細かいルール面や調整でそれはどうなんだろうというところが少し出てきたりもする。
とはいえ、なにしろ枠組みは素直なワーカープレイスメントである。全体の把握自体は難しくない。
ワーカープレイスメントは、じつはこういうゲームに向いているのではないか。そんなことを考えた。
まとめきれていない、完成度の低いコンセプトをまとめてしまう、そういうプロジェクトに向いているのではないか。ワーカープレイスメントのような、強力なフレームワークはそういう風に使うのではないか。
完成度の低さからくる魅力のようなものも、ある。スーパーな職人が作る見事なゲームデザインよりも、若手の熱気にあふれる、しかし完成度をみれば高いとはいえない、そういうゲームのほうが、売れてしまったりする。
もちろん諸刃の剣というか、狙ってやるようなことではないと思うけど。そういう熱は、ともすればゲームを破壊してしまう。でも、強力なフレームワークはそれを防ぐために有効なんじゃないか。
ワーカープレイスメントの亜種はもう腐るほどあるわけなのだけど。じっさいのところは、素直なそのまんまのワーカープレイスメントというのは意外と、思うほど多くない。ワーカープレイスメントだといわれているゲームであっても、じつはけっこうアレンジされていて、やっていることは違ったりする。
そういうのを見ていて、ちょっと思うことがある。
ベテランのゲーム職人が、誇りと技術力をもって本気で練り上げ洗練していくと、ワーカープレイスメントじゃなくなってしまうんじゃないか。
本気の完成度っていうのはそういう面があるんじゃないか。
だって、本当にそのゲームにもっともふさわしいシステムが、既存のものとまったく同じだなんてことがあるだろうか。
これは、最近のデッキゲームムーブメントにもいえることなのだろうけど。
逆に、そこまで磨き上げられていないのならば、むしろ既存の強力な枠組みに乗せられたことが結果的に正解になったりするんじゃないか。
(これはデザイナーじゃなく、ユーザの視点からの話だ。デザイナーはそんなこと考えていない。作りたいから作るだけだろう)
プレタポルテはおもしろい。でも、どこか整理されていない感がある。決して破綻しているわけではないのだけど。
素直なワーカープレイスメントのおもしろさと、ルールの微妙な乱雑さを許容しても作ってしまった熱量。それが素直におもしろい。そんな風に感じた。
ゲームマーケット2012春に向けて、ゲームを作ってるのです。
タイトルは『オートマチックフロンティア』。
こういう感じの。
いかにもな感じで。
火星に旅立ったロボット探査機のお話です。
↑ロボットとか、ロボットのパーツとか。
(ちなみに、カードサイズはB9の予定です。カードも箱も小さいです)
火星ではいろいろな脅威や発見が待ち受けています。ロボットはさまざまな装備を使ってそれらに立ち向かいます。
↑このような火星カードが6種類24枚あります。24枚全部こなしたらゲーム終了。
しかし、火星は遠すぎて、地球からの命令がすぐには届きません。少し先のことを予想する必要があります……。
ゲームは、3回分の行動を手札から伏せる→火星カードを3枚解決する のくりかえしです。
火星カードの中には、けっこう悪い効果もあります。マゾゲーです。現実よりもだいぶ過酷な火星になってます。
数々の脅威をくぐり抜けながら発見物を採集して、探査が終わったときに一番勝利点を多く持ってたプレイヤーの勝ち。
SFテーマの上にマゾゲーって……。
とか思わんでもないけど。わたしがどっちも好きなのです。
内容物:カード160枚 アクリルチット16個
プレイ人数:2-4人
プレイ時間:60分くらい
予定価格:イベント価格 2,500円
ゲームマーケット2012春に、そんな本が出るそうで。
これは表紙じゃないらしいけど。
作ってるのは、ドミニオン木曜会の人たち。
この会は、新宿のゲームスペース柏木で毎週木曜に開催されている。なんと、ドミニオンを毎週遊んでいるんである。
こないだのエッセンの世界大会で優勝したルネさんや、会主催のretletさんなど、かなりすごいプレイヤーの人たちが参加している。
わたしも前に『ドミニオンレシピ』を書いたわけなのだけど。3冊目の海辺編まで書いて止まってた。なんでかというと、4つめの錬金術以降、攻略書けるほどプレイしてないから。
でもときどき「続き出ないんですか?」と訊かれることがあったわけです。
大変ありがたいことなのだけど、書けないものは書けない。というか、本書くレベルまで遊ぶのはこれけっこう大変で。ゲーム作りはじめたりしたこともあり、そこまでの時間をとれていなかった。
お客さまはいるのに、もうしわけないことだなあと思ったりもしていた。
そんな思いもあったりなかったりして、木曜会の連中にはことあるごとに「書かない?」といいつづけてきた。奴ら以上の適任はいないと思うからだ。
それが、とうとう実現するというわけで。甲斐があったというものなのです(たぶん関係ないけど)。
書いてるのはたぶん世界でもトップクラスのプレイヤーたちだろうと思うし、わたしも楽しみだ。期待。