2006.01.14 00:45 てらしま
さあ、おもしろくなってきたのである。
とうとう完全にその気になった主人公と、
この瞳子というキャラクター、わたしは好きなのである。ひょっとしたら、主人公の
えーと、つまり、いわゆる、ある種の専門性の高い趣味を持った人々が好んで使う隠語でいうならば「ツンデレ」ってやつ?(まだデレまでいってない)
まあせっかくのいいキャラクターをこんな謎の単語一つで片づけてしまうのももったいないわけなのだが、とりあえず、こういう言葉が流行しなければならなかったほど、このキャラクターアーキタイプは重要だったのだ。
もちろん、萌え系とかなんとかいわれているエロゲーだのメディアミックス作品だのとマリみてとでは、もとより格が違う。妙な隠語に反応する偏屈な読者の嗜好に合わせて造形されたわけでは決してない。
嫌なやつとして出てきて、実はいいやつかもしれないとなって、しかしなかなかもったいぶって、深く踏みこんだ描写はされてこなかったキャラクターだ。それだけ、大事に扱われてきたわけでもある。ひっぱりにひっぱって、ここでついに真打ち登場! というわけだ。
登場したときの嫌なやつっぷりとそのあとのフォローと、つまりこのシリーズがもっとも盛り上がった『レイニーブルー』『パラソルをさして』で重要な役割を演じたことが大きい。一人一人のキャラクターのストーリーを切り出してみたとき、こいつほど起伏に富んだ、しっかりした物語を与えられているキャラクターは、祐巳以外ではいないのだ。
こいつのためにこのシリーズがあった、といわれてもいいくらいである。おそらく、たぶん漠然とだろうが、そういう構想は早い段階からあったのではないだろうか。
というわけで、マリみては本筋に戻ったのだ。まだ読んでいない人がいたら、安心してください。
これは『パラソルをさして』の正当な続編であります。
そんなこの巻、やはり本気になったストーリーは1冊では終わらず、次に続く。
内容についての印象としては「完成度の高い話の前編」である。
前編といったって、次巻で完結するかどうかはわからないのだが、だとしても、数冊先の完結編に続く、前編だ。
なぜそういいきってしまうかというと、それはつまり、先の展開を予想しているからだ。ここからつながる話を考えると、(限定された)数パターンの展開がありえる。本読みなら誰でも無意識にやっていることだろうが、それを想像したとき「完成度の高い」話になるだろうと、思えるのである。
こうして予想できてしまうあたりは残念といえば残念。でもそれはたぶん、充分な準備がなされてしまっているがゆえのことだろう。よくできたストーリーは先が読めてしまう。これはしかたのないことだ。
それでもわたしは、まったく先の読めないがちゃがちゃした話よりも、先の読めてしまう話のほうが価値が高いと思う。
マリみてでいうなら、誰が誰とくっつくのかまったくわからない、どろどろのソープオペラ(フラワーコミックスがしょっちゅうやってるみたいな)をやれたはずなのである。それこそ女性対女性の関係を認めてしまっている世界だ、ここに男性を絡ませてもいいのだし、あらゆることができるではないか。実際、そうなりかけた時期もあったわけなのだが、やはりどうも落ちつかなかった。
しかしこの巻で本気になってみると、あくまで基本は一対一だ。
話が単純になるぶん、しっかりと描ける。話の作り方そのものは『レイニーブルー』と変わらない、主人公に与える情報を限定して、準一人称でいろいろと悩ませるもの。ただし違うのは、今回は相手も悩んでいるというところだ。そういう意味では、しっかりと造形が定まってきたキャラクターが二人いないとできない話である。
これだけの枚数の描写に耐えるキャラクターは、たぶん祐巳と瞳子しかいないのである。
このシリーズ、実はキャラクターは弱い。お姉さまである祥子でさえ、たぶん一人で一冊分のストーリーには耐えない。
また、ほとんどのキャラクターが、すでに話を終えている。新たな話をはじめるのでなければ登場する必要すらないのだが、そこは学校だから出てきてしまうだけである。
その中で、ここまで物語の続いているほとんど唯一のキャラクターである瞳子の話。本気も本気、大本気だと思うのだ。これでシリーズが終わってもかまわないですよ。