ボードゲームの紹介です。もちろんドイツ製が中心。
ゲームのデータは公式ではなく、執筆者の主観です。てらしまはけっこう考えるスタイルのようなので、特にプレイ時間は長めになっています。でもメンツによって違うわね。
オリンポスの神々が見守る古代ギリシャ世界。プレイヤーたちは部族のひとつとなり、この地を開拓する。神話時代のお話なので、地中海にはまだアトランティスが浮かんでいたりもする。
デザイナーは『スモールワールド』のフィリップ・キーヤーツ。たしかにそれっぽいところもありつつ、プレイ感はけっこう違ったりもする。
これかなり好き。
ギリシャ世界(と海に浮かぶアトランティス)の地図が描かれたボードと「発見タイル」が並んだ発展ボードの2枚がある。地図上で領地争いをしつつ、その領地から産出された資源をつかってさまざまな発見をしていく。
発見タイルにはもちろん、さまざまな能力や勝利点がある。武力が上がる剣とか、移動力が激しく向上する騎馬や航海術とか。
おもしろいところだけど。これ意外と、マップよりも発見タイルのほうの比重が大きい。マップ上で領地争いをするのは、発見のための資源を確保するためだったりする。
ゲームシステムとしては『テーベの東』や『80日間世界一周』で有名な時間システムが採用されている。『グレンモア』なども近いだろう。
手番はつねに、時間トラック上で一番うしろのプレイヤーがおこなう。時間のかかることをすれば、次の手番が回ってくるまでに時間がかかる。逆に手番に時間をかけなければ、2回連続で手番が回ってくることもある。
この時間システム、完成度が非常に高く、おもしろいゲームが多い気がする。
時間のかかることをすれば手番が遅くなるわけだから、これだけでもジレンマがある。また、つねに後ろの人の手番というのは平等感があり、なんか納得できる。
要素はけっこうたくさんあるのだけど。そのどれもがおもしろい。
発見タイルなどで「武力」が手に入り、他のプレイヤーや現住民族と戦争したりもする。この戦争のルールがとてもおもしろい。
とりあえず、戦争は「攻撃側が勝つ」。……なかなかに、常識を覆すルールだ。
ただし、武力によってかかる時間が変わってくる。武力が上回っていれば、経過時間1で勝てる。相手と同じなら、2。相手よりも小さければ、3だ。
この解釈は斬新だ。時間トラックのシステムともかみあって、とてもおもしろい効果になってる(知らないけど、ウォーゲームの世界にはすでにあったものだったりするんだろうか)。
戦争以外だと「稲妻」というのがある。名前は稲妻だけど、絵はゼウスの顔。このへんはどうなんだこれって感じだけど(笑)。時間トラックの途中に何箇所か「オリンポスカード」をめくる場所がある。これは、そこらにいるオリンポスの神々が登場し、なにかイベントが起きるというもの。
まあいわゆるイベントカードなのだけど。このとき、いい効果は稲妻を一番多く持っているプレイヤーに、悪い効果は稲妻が一番少ないプレイヤーにいく。
ただ単に乱数を足したわけではなく、ちょっとコントロールできるようになっている。
あと、発見タイルの初期配置。ボードにコストが書かれており、その上にランダムで並べる。
登場する効果は毎回同じだけど、そのコストがゲームによって違う。あるゲームでは木材で作れたものが、次のゲームでは穀物で作れる。
もちろん、武力も稲妻も、発見タイルで増える。ふつうなら「鉄は武力」とか、テーマに沿ったコストになっているだろうし、そのほうがいいところも多いのだけど。このゲームの場合、武力の材料は木材かもしれないし穀物かもしれない。
テーマ的にそれでいいのか? と思うところはあるものの。これにより、毎回違うゲーム展開になる。
他にもあるけど。細かいルールがとても多く、チットの種類も多いのだけど、そのひとつひとつに工夫があり、おもしろい。
プレイした感想では、見た目よりプレイ感は軽く、しかしそのプレイ感よりじっさいにかかる時間は長い。という感じだった。
とにかく要素が多く選択肢も多いのだけど、思ったよりも指針があり、それに沿ってプレイできる。だから短く感じるけど、やっぱり要素は多いのだ。気がつけばそれなりの時間はかかっている。そんな感じ。
この人の代表作といえばスモールワールド(とヴィンチ)だけど。なんだろう。なにやら、得体のしれない楽しさを演出してくれる感じが、似ているといえばそんな気もする。
どうなんだそれと思うところもあるけど、そう思わせるほどゲームを練った結果という気もする。要素多すぎで整理されていないところもあるだろうけど、それがおもしろいならいいじゃんという気もする。
いろいろあるけど、最近やった重めのゲームの中では一番好きなのだ。
こんなタイトルだけど、倉庫は1個しか登場しない。
ゲーム開始時にコインを配るのだけど、配ってみたら銀行のコインがほとんど残ってない。えっ足りない? と思いつつはじめてみたら、ぜんぜん足りるし。
という。
この人、シュテファン・フェルドのゲームは、わりとそんなところがある気がする。リソースが絞られていたりネガティブなジレンマがあったり、強いインタラクションがあったりして、苦しい。
近ごろ話題のデザイナーで、近いうちに賞を獲るだろうなどとも囁かれているようなのだけど。なんかこう、この苦しさを喜ぶのはマニアだけなんじゃないかというような感もないではないような。
タイトルのとおり、倉庫が建ち並ぶ港街が舞台だ。船から降ろされる商品を受けとることで得点になったりする。
やることは、場の建物カードを獲得するという、ほとんどそれだけ。とてもシンプルなゲームだ。
ただこの獲得方法が、とても独特だ。
変則オークションのようなことをするのだけど。
ほしいカードの上に、自分のコマを置いていく。コマは各プレイヤー3個くらい持っている。
コマを一番最初に置いたプレイヤーが、コインを使ってそのカードを購入できる。
そして、その値段は「そのコマよりも上にあるコマの数」。
このルールが最大の特徴だ。
早く置かないとほしいカードがとれないが、人気のあるカードほど高くなってしまう。
高くなりすぎて買えなくなったりもする。買えなければ、一つ上にコマを置いたプレイヤーに購入の権利が移る。このとき、カードの値段となる「そのコマよりも上にあるコマの数」はもちろん、1つ減っている。
人気があれば高くなる。早く買いにいけば確実に買えるけど高い。そうかそれこれだけのルールで表現できてしまうかという、なんともきれいなシステムだ。
非常に洗練されたシステムだ。こういうのを作るから、話題のデザイナーなのだろう。
さてしかし、システムとゲームバランスというのは、関連しているようであまりしていない。
ゲームバランスというか。表現されたゲームというか調整というか。コンピュータゲームの言葉ならレベルデザインということになるのか。
もちろん調整はシステムに制約を受けるし、システムによって表現しやすいものとそうでないものもあるだろう。しかし、それ以上に、調整にはデザイナーの色が出る。
システムが決まったとしても、その中でできることには大きな幅があるのだ。その中でデザイナーがいいと思った場所に、ゲームは着地する。
じつのところ、ゲームシステムよりもいわゆるゲームバランスのほうに、デザイナーの特徴が出やすいと思う。
なにがいいたいかというと、フェルドはかなりのサディストだよね。
この人はなにやらすごいゲームシステムを作る。そこは、才能あるデザイナーとかそういうやつだろう。
そして、そのシステムの中で、プレイヤーに与える資源を絞ったうえジレンマを入れ、苦しいマネジメントを要求する。いわゆるインタラクションも非常に強い。
プレイヤーを苦しめるゲームバランスだ。
というような印象がある。
この倉庫の街が、まさにそれ。
予想に反して、いわゆる拡大再生産は全然しない。建物カードがたくさんあるから、そのつもりで最初にそれっぽい建物を買っていたら、これがぜんぜん弱いのだ。
そんなゲームじゃなかった。得点できるときはしないといけない。
また、上に書いたルールだけではわからないところなのだけど。これじっさいのところは「相手に買わせないためにコマを置く」というゲーム展開になる。買う気なんかなくてもコマを置き、お互い資金が足りないのにさらに妨害しあう泥沼。
そして、いわゆるインタラクションはとても強い。「お仕事」も「キングメイカー」も簡単に発生する。
そういうゲームだ。おもしろいかというと、おもしろいけどそれはなんというか、こういうのが好きならかなあ。
また同人ゲーム。
同人とはいえ、こうして日本製ゲームをふつうに紹介できてるのが、最近すごいなーと思う。
これはなにか意図があってやっているわけではなく、というかそういう計画性とかなにもなく気分で書いてるんだけど、そうするとやっぱり話題のゲームを優先して書きたくなるわけです。それで、話題のゲームを気分で選んでいったら自然に日本製ゲームの記事を書いているわけで。これはけっこうすごいんじゃなかろうか。
まあ、自分が同人にだいぶ浸かっててその影響というのもありそうですが。
「ひも電」だ。なんとも非常にわかりやすい。
ひもで、電車なんである。
もうそのとおりの内容で、テーブルに駅タイルを並べて、それを、線路に見立てたひもで繋いでいく。
ゲーム風景を一見してなにをしているかわかる。このアピール力とわかりやすさ。
エッセンでヤポンブランドで出展されたときも大きな注目を受け、すでに Asmodee からの発売が決まっているとか。あとこのゲームをもとにしたフォロワーも登場しているとか。
外国のほうが盛り上がってるかもしれない。
で、今回紹介してるのは、そのひも電の続編。「輸送編」だ。
個人的には、こちらの輸送編のほうがずっと好みなのだけど。
まず、長ーい黒の輪になったひもで世界を作る。このひもの外に出てはならない。
次に、灰色の、やはり輪になったひもを世界のどこかに置く。これは「山」だ。
あとは、駅タイルを世界の中にてきとうにちりばめる。
これで準備完了。
なんだろうこれ。すばらしい。
このビジュアルを見せた時点で、おそらくどのプレイヤーも見たことない風景なのだ。とにかくアピール力がすごい。
輸送編では、ここからのゲームが少しゲーマーズゲームよりにチューンされている。
手番には線路(ひも)を配置し、駅と駅をつなげる。
アクションポイントをつかって、荷物を運んだり、列車をパワーアップしたりする。
基本編と比べて、わかりやすくいえば、エンパイアビルダーに近づいている。
デザイナーが本当にやりたかったのはこの「輸送編」なんじゃないかとも思うのだ。わたしはこちらのほうがずっと好きだ。
一緒にプレイした友人がいっていたのは「そうだよこれがやりたかったんだよ」。まさにそうだなーと思う。
今年ゲームマーケット2011春で発表された、これも同人ゲーム。
とはいえ、ただの同人とは格が違う。あの会場で売ったと噂されている数も、桁外れだ。
っていうか、プロの漫画家だし。聞くところによれば、ふだんゲームマーケットにこない人たちがあの会場にきてこのゲームを買っていく姿もあったとかなんとか。サークルとして参加してる身としては、なにしてくれんのと(笑)。
ゲームのほうは、いわゆるドミニオンクローンだ。まあ「クローン」と呼んでいいだろう程度に、ドミニオンを流用している。
剣と魔法の世界。病に倒れた皇帝の後継者を擁立しよう、というお話。その後継者たちというのが7人のお姫さま(2人は双子らしく、カードは6枚)。
ドミニオンのようにカードを購入し、自分のデッキを育てていく。財宝カードとかアクションカードとか、勝利点カードとかを購入する。ドミニオンで見たことのあるカードがたくさんあったりもする。
村っぽいのとか、研究所っぽいのとか。
→の写真は、いわゆる村。まんまなのだけど。これこういうゲームとしては珍しいのだが、ドミニオンの村より強い(安い)。他にも、本家より強いカードがけっこうある。
なんか日本のゲームの特徴なのかどうなのか、いわゆる「バランス」をとるために、本家ドミニオンよりもカードの効果が弱くなることが多い。しかしそれはたぶん、楽しさを削っている。その方針では、本家の縮小版にしかならないという気がする。なにかがぶれていないかと思う。
本家より強いカードがあるというのは、それだけ、目標をぶれずに高い意識で作られたというように感じる。
ドミニオンとは違うところももちろんあって。
それが、お姫さまを「擁立」するルール。
お姫さまは6コインで擁立できる。擁立すると、これだけは特別にデッキに入らず、自分の前に置かれる。
思い出すのは『デックビルドガンダム』のパイロットあたりか。
この擁立をしたあとが、このゲーム最大の特徴であり、ドミニオンとは違うところ。お姫さまを擁立していれば、勝利点カードを場に出していくことができる。
ドミニオンはもちろん、デッキの中の勝利点を高めることがゲームの目的だ。しかしハートオブクラウンはそこに手を入れた。勝利点カードはデッキに入っただけではなんの意味もなく、お姫さまを擁立して場に出して、はじめて得点となるんである。
ゲームのステージがひとつ増えているんである。ルール自体はドミニオンそのものだけど、かなりダイナミックな変更だ。
しょうじきなところわたしは、いわゆるドミニオンクローンへの評価が高くない。
とはいえ評価しているものもある。『サンダーストーン』あたりなら、クローンと呼ぶのに違和感をおぼえたりもする。
そのあたりの感覚の源泉として、やはり「オリジナルであることに敬意をはらいたい」というところがある。
これはひどく個人的な印象の話だけど。
ドミニオンが作った枠組みとゲーム性を流用して作られたゲームは、オリジナルであるとはいえない。オリジナルのゲームシステムで世界中のゲームと渡り合っている他のゲームたちと、同じ土俵で評価することはできない。
そういう風なことを感じている。
でも『サンダーストーン』くらいになると、ドミニオンとははじめからぜんぜん違うところでゲームを成立させている。そしてその完成度が水準を超えている。だから、ドミニオンの文脈で語っていいのかどうかに疑問を感じる。
そんな俺基準でいくと。ハートオブクラウンはやはり、ドミニオンクローンかなあ微妙なところだけど。ドミニオンの枠を拡張しているが、抜け出してはいない。かなあ。
だから、他のゲームと同じ軸で評価することはしない。
これは俺基準の中ではそれなりに大切なことで。いくら出来がよくても、他のゲームと同じ土俵で比べられる質のものではない。忘れないようにしたいのだ。
そんな前提の上でだけど、このゲーム、かなりよくできている。
擁立のルールがとてもいい。
ふつうドミニオンでは、手札にきた勝利点カードはジャマだ。手札には勝利点ではなく財宝を集めたい。そのため、例えば「地下貯蔵庫」で勝利点カードを捨てたりする。
ところがこのハートオブクラウン。お姫さまを擁立したあとは、勝利点カードを手札から場に出さなければならない。そうしないと得点にならないのだ。
そのため、逆に財宝カードのほうを捨てたりする。財宝か、勝利点かという2択を迫られる局面があったりする。
そのあたりのゲーム性が、きれいに追加されている。間違いなく、ドミニオンとはひと味違うゲームとして成立している。
このゲーム、わたしは高く評価しているんである。
ドミニオンクローンであるというのは商業的な理由と思えば間違った選択ではなく、しかしそこにきっちり新しいゲームを組みこんでいる。
なによりも、絵がいいし。
いやいいですよ。萌えが好きだとか嫌いだとか、そもそもこれの絵が萌えなのかとか、そんなことはどうでもよくて、ゲームが表現したい世界観がしっかり表現されている。
あとカードのデザインなどもよくできており、見やすい(左上に購入コストははやめたほうがいい、などはあるけど)。
そういう品質の面に関しては、同人のレベルははるかに超えている。
というか……、小さなボードゲームの世界で他と比較するなら、小さめのプロのレベルも超えてしまっている出来だろう。
ルール面も、だいぶいろいろな工夫がある。
特にアクションの「リンクシンボル」はすばらしい。
カード効果欄の右に矢印があったら、もう1枚アクションが使える。これがドミニオンでいう「+1アクション」を表す。下にも矢印があれば、分岐が増える。つまりドミニオンでいう「+2アクション」だ。
そしてこのゲーム、財宝カードにもリンクシンボルが描かれている。つまり、アクションと財宝に区別がない。この点に関しては、ドミニオンよりも整理されてしまっているんである。
他にも、購入数のルールを省いていくらでも買えるようになっていたりもする。その代わり、サプライがある程度ランダムに入れ替わるようになっている。
ルールを追加する以上、元のルールは少し削ったり整理したりしてほしいよねというのは、クローンをプレイしてよく思うことだ。そこもクリアしている。
意外とといったらいけないけど、筋のいい改変がなされてる。
なんていうか。
狭いボドゲの世界に、いきなり違う世界のメソッドで参入してきたっていうか。
同人ゲームとはいうけど、少しマイナーな輸入ゲームよりずっと多く出てるし。
むしろたぶん、ゲームでない同人誌の大手サークルの活動と思ったほうがいいかもしれない。ゲームマーケット後の販路はゲームショップではなく、とらのあなとメロンブックスだ。
そういう、我々が知るのとは違うアプローチで作られ、販売されているゲームだ。
そういうゲームが突如現れ、イベントでは異例なほどの数を売った。遊んでみれば出来もいい。なんとも痛快なのだ。
世界の七不思議クローン、とデザイナーがtwitterでいっていたので、そう呼んでいいんだろうか。
じつのところプレイはそんなに似てないのだけど、まあシステムはだいぶ流用されている。
戦乱の島で、100年間に渡って戦うというお話。
4ラウンドで100年なので、1ラウンドは25年ということになる。この時間の流れが、ひとつの大きなテーマになっている。
大きなゲームシステムは、トレーディングカードゲームでいうところのドラフト。5枚のカードを受け取り、中から1枚を選ぶ。残りの4枚をとなりのプレイヤーに回す。次は、回ってきた4枚から1枚を選ぶ。それをくりかえして、最終的に5枚を選ぶ。
次に、そうして選んだカードを場に出すフェイズ。自分の前に4枚(途中から5枚)までを出す。
その次に戦争フェイズがあって、場に出したカードの戦力を両隣と比べる。
そしてその次が、このゲームの特徴である経年フェイズ。25年が経過し、場に出したユニットたちが歳をとる。カードの上に「経年カウンター」を乗せることでこれを表現する。
ユニットは2ラウンド経過すると老衰で死ぬ。そういうわけで、場のカードはどんどん入れ替わっていく。
はじめから経年カウンターが乗っている老兵とか、経年カウンターが乗ると成長する戦士とか、寿命を延ばす医者とかもいる。
この経年が実現するのは、いわゆる拡大再生産しないゲームだ。
拡大しない、かといってラウンドごとに一新するわけでもない、そのあたりを狙うための仕組みのひとつだといえるだろう。
ゲームプレイには意味がなければならない。意味を持たせるためには、いまの選択が次以降のラウンドに影響しなければならない。そこで、ゲームでよく使われるのは「拡大再生産」だ。いま建物を建てれば、次のラウンド以降その建物の効果を使って優位に立てる。この選択が次のラウンド以降にも影響を及ぼす、拡大再生産はそのためにある。
しかし、拡大再生産はじゃじゃ馬だ。差がつきはじめたらそれがどんどん開いていくという欠点がある。
いわゆる正のフィードバックループと呼ばれるものになるわけだけど。
これを抑制するために、逆の「負のフィードバックループ」を入れて調整する、ということを、ゲームデザイナーはしばしばやる。
例えばカタンなら交渉と盗賊。ドミニオンなら、なんの効果もない勝利点カードがデッキに入り動きが鈍くなっていくこと。他にもいろいろある。
ヴォーパルスの場合。強制的にユニットが老衰で死んでいくという強いシステムを使った。
このゲーム、そういうところには気をつかって作られている。
経年以外にも、たとえば、ユニットは5枚までしか出せないとか。その中でも、戦争に参加できるのは「前衛」の3枚だけだとか。
そういう細かいルールの追加で、とにかくフィードバックループを収束させるように丁寧に気を配って、欠点をつぶしていったデザイン。
そのため、非常に安定した印象のゲームだ。
余談だけど。
これ、世界の七不思議の場合はどうしているかというと、世代ごとに使えるカードを変えている。
2世代目のカードは1世代目の2倍程度強い。3世代目は3倍(もしも4世代目があったら、5倍くらいだろう)。そうすることで、これも強制的に「バランス」がとられている。
正のフィードバックループはあるのだけど、それとほぼ同じ速度で、場全体のカードの強さが上がっていく。これも一種の、負のフィードバックループである。
ただあれは、セットアップが面倒だ。
あと、カードが世代分、3分割されてしまうので、とれる作戦の数も3分の1になる。そのへんが弱点ではあったというわけで。
そもそも拡大しないというヴォーパルスの選択は、ひとつの解答だ。
まあこの方法にも欠点はあって、なにしろ拡大しないのでゲームが地味という面がある。4ラウンド目が消化試合になる展開があったりはするのだけど。
というような、非常に丁寧に調整されたゲーム。
「バランス」へのこだわりは過剰なほどで、用意された多くの戦略のすべてに、おそらくチャンスがある(効果が発散しないからそれが可能になっている)。
似た印象のデザイナーだと、フヴァティルとかかなあ。ルールは非常に多いのだけど、親切に手順が紹介されるためそう感じさせない。加えて、効果よりシステムが強いためゲームが発散しない、というような作りだ。
若干残念なのはコンポーネントか。勝利点トラック用のボードが白黒印刷でもったいないとか、やっぱりもう少し大きい木のコマがほしくなるとか。というのはまあある。
あとカードの、デザインというか。アイコンの解像度がやけに低いあたりと、色が妙にくすんでる?印刷で化けてる?というような感じが少しあり、若干見分けづらい。そのへんは同人ゆえ、そういうもんだという面はあるにせよ。
もうひとつ、書かなければならないことがある。
このゲーム、すべてのフェイズが「同時進行」なのだけど。プレイヤーの選択が入る場面で同時進行というのは本来、許されないんである。
世界の七不思議でも完全にアウトだったのだ。このゲームではさらに同時プレイが増え、傷が拡がっている。少し誤魔化しすぎかと思う。
とはいえ、世界の七不思議だってゲーム賞を獲っちゃったのだ。ルールの整合性より楽しさを優先するデザインが、悪いといいきれるものでもない。
丁寧に欠点を埋められているので、極端に差がつくなどのことがなく、初プレイから楽しめると思う。これ日本の同人なのだが、好ゲームだ。
ところで。レビュー書いといてなんだけど、これいま売ってない(笑)。
ごく少数の生産だったようで、ゲームマーケット2011春で販売したぶんしかなかったのだそうなのです。わたしも持ってないし……。
k_bigwheel -2011/07/11 00:16
遅ればせながら読ませていただきました。
一つだけ気になったのですが、
このゲーム、すべてのフェイズが「同時進行」なのだけど。
プレイヤーの選択が入る場面で同時進行というのは本来、許されないんである。
というのは、どういう意味ですか?7wondersでも多人数同時でのプレイはプレイ時間を縮めるメリットには思えても、特にデメリットは感じなかったのですが。
てらしま -2011/07/11 02:25
ありがとうございます。
世界の七不思議では、建物カードを建てるか、七不思議を建てるか、捨てて3コインにするかという選択を同時にやります。
これは本当は、他人の選択を全部見てから決めたほうが有利です。なので、本気の本気で勝ちを目指すなら、先に動いたら不利だから誰も動かないということになります。
少しの差ではあるでしょうが、僅差の決着だったときにじつはそこで勝負が決まっていたというケースがないとはいいきれません。
まあふつうは問題にならないし、このゲームの場合問題になるケースが多くあるのかどうかも検証していないのですが。
ルールとしては、本当の「同時」はありえないので、本来はなにかが必要だろうと思います。ついたてで隠してプレイを決めるとか、解決法は他のゲームでいろいろ示されているし。
てらしま -2011/07/11 02:34
あ、ヴォーパルスの場合はデザイナーもわかっていて「厳密なルール」という項目がルールブックにあります。順番が問題になる場合の決めかたが定められています。
おそらく使われることが少ないルールだと思うので(そしてそのとき空気を読まないプレイヤーが有利になるので)完全な解決ではありませんが、フォローはされています。そのことは上に書き忘れていました。
k.bigwheel -2011/07/12 14:22
ありがとうございます。なるほど、合点がいきました。
偉大な(またはそうでもない)王の時代も、永遠ではありませんでした。
突如強大な敵が現れ、平和だった国は荒らされました。騎士たちは懸命に戦いましたが、押しとどめることができませんでした。そしてついに、敵は王の城に侵入しました。王は自ら剣をとり立ち向かいますが、あえなく倒れてしまいます。平和だった王国は、侵略されたのでした。 あれから、十数年。国はすっかり、新たな支配者のものとなっていました。 あなたは、山奥の村でひっそりと暮らす少年です。何度も見る夢がありました。人々の叫び声、踏み荒らされた畑、炎に包まれた城。 ある日、父親から告げられます。自分はじつは、あなたの父ではない。あなたこそが、あのとき倒れた偉大な王の子なのだと。そういうと、父だと思っていた男はあなたに傅きました。あなたは戸惑いながらも、自分の運命を理解したのでした……。 |
あなたは、失われた王国の再建を目指す王子です。
国には、あなたの目的に協力的な人物が多くいます。彼らを集め、奪われた王国を再建しましょう。
各ラウンドは2つのフェイズに分かれます。最初の「ドラフトフェイズ」では、王国にいる様々な人物を集めます。次の「プレイフェイズ」では、集めた仲間たちの力を借り、様々なアクションをおこないます。
ゲーム終了時、もっとも多くの勝利点を獲得していたプレイヤーがゲームに勝利し、偉大な王「アークキング」となります。
いただいたお問い合わせなどを参考に、随時追加します。
ゲームルールに関するお問い合わせ、ご意見、ご感想などは
twitterで@terrasimaにメッセージを送るか、下記メールアドレスにメールを送ってください。
(※半角にしてください)
ブラフゲームらしい。近ごろ元気なフランス製で、なにやら海外でも評判が高いらしい。
そんなことを聞いたので買って、ルールを読んでみたら。ルールを読んだ率直な感想は
「大丈夫かこれ」
だった。
シンプルさを求めすぎてなにかを失っちゃったゲームって、しょうじきたくさん見てきてるじゃないすか。いわゆる「ジャンケン」と呼ばれるやつ。ルールを流し読んだだけでは、いかにもそれだったのだけど。
でもやってみたらおもしろい。むしろ想像を超えてエレガントな美しいルールだったというわけなのだけど。
日本語タイトルは『髑髏と薔薇』。漢字で。書けねーよこんなの書けるのは暴走族だけだよと思ったなら、それは正しい。暴走族が自分の度胸を示す、乱暴な意地の張り合いがテーマなんである。この日本語タイトルもいい。
手札として、4枚のタイルを渡される。
コースター型の、手のひらほどもある大きさのタイルである。
タイルには「髑髏」と「薔薇」の2種類がある。髑髏が1枚、薔薇が3枚だ。
まず全員が、手札から1枚を選び自分の前のマットに伏せる。このマットもまた過剰な大きさの豪華な厚紙製なのだけど。
手番がきたら、さらに手札から1枚を伏せるか「チャレンジ」を宣言する。
チャレンジというのは「薔薇を何枚めくれるか」というのを宣言する。順番に宣言していき、一番多い数をいったプレイヤーがチャレンジャーとなる。
で、チャレンジ。まず自分のまえのタイルを全部表向きにする(ここに和訳ルールの誤植があるらしく、全部らしい)。
次に、他のプレイヤーのタイルを1枚ずつ表向きにしていく。
宣言した数の薔薇をめくったら成功だ。もし1枚でも髑髏をめくってしまったら、失敗である。
それだけ? ルールを読んだ感想はそんな感じだった。それでゲームになるの? という。相手が髑髏を置いたか薔薇を置いたかなんて読めるのか。いわゆる「ただのジャンケン」ではないかと、思ったんである。
しかし、そうではなかったということになる。
少し理屈をいうと。
「ただのジャンケン」でないためには、相手が伏せたタイルがなんなのかを「読む」ための情報が必要になる。
この情報というのは、ゲーム上に表現されていないといけない。
いや「いけない」ということもないのだけど。
いわゆるコミュニケーションゲームだと思えば、情報ゼロで読み合いをさせてもいいのだが。しかし、情報はあったほうがはるかにおもしろいだろう。これは断言できる。
このゲームの場合。「読む」ための情報は、相手プレイヤーの宣言。この宣言に意味がないといけないということだ。
そうでないと全部デタラメをいっていればいいことになり、これもゲームプレイの意味とならない。ただのデタラメは読みようがない。
プレイヤーの思惑が情報として乗った宣言があり、それをもとに他のプレイヤーが考える。
そういう前提が、ブラフゲームにはある。
この『髑髏と薔薇』でいえば。
チャレンジャーとなるためには、相手よりも高い数を宣言しなければならない。だが高い数をいうほど、失敗のリスクが高まる。チャレンジャーになりたい気持ちが強いほど、高い数をいえる。宣言には常にそういう意味がある。
加えて、嘘をいうことができる。
チャレンジャーになったらまず自分のタイルを全部めくる。つまり、自分で髑髏を伏せていたらその時点で失敗だ。でも、髑髏を伏せて宣言してもかまわないのである。次のプレイヤーがそれより大きい数字をいえば、チャレンジャーにならずにすむのだから。
つまり、髑髏を伏せて宣言し、相手をはめる罠を張るのだ。
そうして、ひとつひとつの宣言に意味があるから(少なくともありそうに見えるから)、他人の宣言の意味を考えることができる。
名作『ブラフ』(ライアーズダイス)と、ゲームの構造はまったく同じである。ただしそれを、たった2種類のカードでやったということになる。
「ちょっと少なすぎじゃね?」と思ってしまったところが、わたしが最初にルールを読んだときに感じた「大丈夫か」の原因だろう。
少なすぎなどではない。むしろ、こちらの浅はかな想定を超えたエレガンスだったんである。
最初の印象は怪しかったが、やるたびに少しずつ評価を上げている。これすごいんじゃね。
てらしま -2011/05/24 18:19
twitterでご指摘いただいた箇所を修正。手札は5枚ではなく4枚です。
ありがとうございました。
怪獣ゲーである。なんかもう、このビジュアルがもうすごい。
すばらしい。なんてバカ。
怪獣ってのはでかいもの。だからこのでかいコマ! 怪獣ってのは東京を襲うものだ。だから舞台は東京!
そして怪獣は、大都会を踏みつぶしながら大決戦をする。
もうそれがすべてって感じだけど。
上の写真のボードには、どう見たって2マスしかないですが。そういうもんです。ちなみにこの2マスは、東京と、東京湾。
じつのところ、ダイスゲームなんだけど。
ロール・スルー・ジ・エイジズみたいな感じ。
とりあえず手番がきたら、ダイスを6個振る。このダイスは特殊ダイスで、いろんな目が描いてある。出目によってできることがいろいろある。
エネルギーの目が出たらエネルギー(要するにお金)をもらえるとか、攻撃の目が出たら他の怪獣を攻撃するとか。
例によって「目を固定して振りなおし」も、3回までできる。
ダイスの出目にしたがって、エネルギーが出たり、体力を回復したりする。
あと、東京に乗りこむことができる。なにしろキング・オブ・トーキョーだし。
東京にいる怪獣は、毎ターン勝利点をもらえる代わりに、体力を回復できない。しかも、他の怪獣の攻撃を一身に受けることになる。体力がなくなったらゲームから脱落だからあまり長くはいられないのだけど、どこまでガマンするか。
というチキンレースがベースのシステムだ。
もちろん、特殊能力カードなんかもある。
ダイスからもらえるエネルギーをつかって、特殊能力を買うことができる。羽根が生えるとか、ジュニア誕生とか。
チキンレース部分はきっちり乱数とジレンマのゲームとして成立していて、これだけでもかまわない出来なのだけど。そこにあえて、特殊能力なんてものをつけ足してあるんだと思う。
ふつうは、余分な要素は排除したほうがいい。ふつうはそういうのだけど、このゲームに関しては違う。
特殊能力カードは、ゲームとして見たら蛇足だ。だけど、だって、テーマが怪獣なのだ。それも日本の。怪獣から蛇足を省いたら、残るものなんて初代ゴジラくらいしかない。
余分なものをあえて入れたバカゲーデザインだけど、これで正しいんである。誰がなんといおうと。
つまり、アメリカ式バカゲーなので。
とはいえ、バカゲーも洗練されたものだと思ったりもする。これ、ちゃんとゲームとしても楽しめる。
まあでも、怪獣のデザインはやっぱり、日本人から見たらどっか「わかってない」感がありますかね(笑)。